精神科ナースになったわけ 水谷緑 感想
前々回の記事でちらっと紹介していました、精神科ナースになったわけをもう少し詳しく感想を伝えていきたいと思います。
前回に引き続いて、イースト・プレスさんの本ですね。お世話になっています。
この本は漫画で精神科の難しさや面白さをわかりやすく伝えており、大変貴重でおすすめの本です。
試し読みは下記のサイトで出来ます。一度是非どうぞ。
この本は複数の医療従事者への取材を経て作られている話で、ひとつひとつのエピソードは個人が特定されないように配慮されていますが、実話とのことです。
「何か理由がある・・・?」という視点と興味を持つ
このお話に出てくる人たちは、精神科病棟で入院しています。一見何が理由でそうしているかわからないことを繰り返す人が出てきます。
例えば、暑くて汗をかいているのにニット帽を決して外さない人。
例えば、生きたいと言いつつリストカットをやめない人。
例えば、こちらの声かけに妄想をどんどん膨らませる人。
例えば、突発的な自傷・他害が過ぎる人。
等々・・・
「何か理由があるんじゃないか?」という着眼点のもと、関わりを深めていく。患者さんの行動に頭ごなしの否定をするのではなく、また”こうだろうな”と決めつけて関わるのではなく、「どうして?」と率直に聞いていく。
すると不思議に「こう思ってるから」と理由を教えてくれる患者さん。
この流れ、普段の病棟でもあります。突然わーっとスタッフに向かって暴言を吐いてくる人がいまして、そのテンションにあえて乗らず、じっと話し終わるまで聞いてから、「どうしてそんなことを言うんですか?」と小さな声で伺うと「だって・・・!」と答えてくれます。
ずっと鼻を押さえて日常生活動作がうまく取れない人に、「どうしたんですか?」と伺うと、「鼻から妖精が出てくるから。」と。
配薬したとたんブチ切れて「もう飲まない!!!」と怒る患者さんに、「何が嫌だったんですか?」と伺うと「私が薬を飲むのは21時40分になってからって言ってるでしょ!!」と。「どうしてその時間なんでしょう?」と再度伺うと、今まで色々試してきた結果その時間に内服すると一番眠れた実感があったから、と・・・。
「怒らないで!」と伝えてしまったり、場合によっては”易怒性が高い”と言ってしまったりして片付けてしまうとその人の本当の理由はわからずじまいです。対話的になること。何か本人なりの理由があるんだろうなあと信じること。伝えることが苦手な人に対し、どういう態度で関わっていけばいいか。本著はそういった着眼点で展開しており、「精神科ってどんなんだろう?」と思っている人に大変おすすめできる本となっています。
看護師自身の心のケア
また、精神科で勤務していると結構心が蝕まれます。私たち看護師は単に優しいだけの存在ではなく、時に厳しく接したり、また時には患者さんのサンドバッグとなってボコボコに言葉の暴力を受けることを求められる時もあります。
帰宅後の寝る前患者さんの顔が浮かぶ / 「かわいそう」「つらそう」と考えているとこっちがズーンとなる / 「精神科で働く上で『ガス抜き』も大きなハードルのひとつかもしれない・・・
そんな一コマがありました。心から同意します。
例えば春日武彦先生だと、「帰宅しても患者のことを考えてしまうなら、少し巻き込まれている」と表現。精神構造を理的に処理されています。
精神科で働くには、自分にあった対処法を身につけることは必須です。
ちなみに私の場合は、はじめは「患者さんの人生の主軸を戻すために、患者さんの問題を肩代わりしないで置こう」と心がけます。次に、それでも辛い時はチーム内や同僚にどんどん話して共有します。自分一人では抱えられないと考え、人に頼ります。それでもまだわだかまりがあれば、その時に作っているWRAPに準じて自分の「元気回復行動プラン」を使っていきます。
私たち医療者は患者さんにとって「治療道具」ですから、自分自身の心のケアを行い、自分を整えていくことは必須だと私は考えています。
看護師の役割
この本を読んでいて再認識したのは、看護師の役割の幅広さです。看護師個人では、多様性な考え方を入れつつ治療的に関わりますし、ただいるだけでも治療的。看護師集団でいれば、治療的”環境”を作りえます。また保健師的にピアのちからをガイドする能力もありますし、市役所などと連携する”チーム力”も求められます。
私たちは医療者ですから、患者さんには良くなって欲しいと願います。ですが、治ることを押し付けるのは違います。最後のエピソードでは「待つ」ことについて、深く掘り下げられています。
「待つ」というのは大変辛く、もどかしい方法です。しかしながらこれほど効果の高い方法はありません。まさに「患者さんの人生の主軸を取り戻す」ための治療的な関わりだといえます。とはいえ、単に待つだけではなく、「待つ」からには変化に対してアンテナを張り巡らし、気持ちの変化や表出を敏感に拾い、ともに発育していく必要があります。大変難しい。だけども、これが治療的な関わりなんだなあと実感します。
もし看護学生さんで本著のような視点を持って患者さんに関われば、さらに多くの気づきが得られるんじゃないかなと感じます。もちろん病棟勤務している看護師にとっても、普段のケアの再確認ができるため、大変ありがたい本だと思います。
今回は短い記事でしたが、本著は大変奥深く、何度も読み返したくなる一冊です。さらっと読めますから、ぜひ一冊どうぞ。