精神科看護「まごころ草とばいきん草」

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精神科看護に関する自分なりの覚書

精神科看護のための事例研究 坂田三允、萱間真美 感想

精神科看護のための事例研究

精神科看護のための事例研究

 

 坂田三允先生と萱間真美先生が共著で展開する本著は面白いのかなと思い、手にとってみました。

 読み進めていくと論文がみるみる整っていく様が非常に解りやすく、要点がかいつまんで説明されていてとてもいい本でした。

 以前の記事で、看護研究をするなら統計的なやり方が簡単に科学的になってよいという話をしていましたが、この本を読んでいると、事例研究の魅力も非常に感じ、少し難しいところもありますがお勧めしたいなと思い、本記事を作ることにしました。

 

 参考までに、以前の記事で統計学を勧めている記事です。

sakatie.hatenablog.com

 

 事例研究などと言った質的研究というのは、量的研究になる前の概念を取り扱っていたり、新しい知識や体系の創造と担っていたりと言った側面があり、拠り所が少なく難しいものだと私は思っています。

  それと同時に、臨床ではいつも体系だった科学的なアプローチがされているかといったら、そうではないのも事実です。特に精神科領域においては、主剤からして仮説で成り立っており、人の心に確実に劇的に効く看護の方法がないというのが実情です。

 

 そういった普段の関わりを振り返り、どのような関わりがよいかどうかを考えるのは、普段の事例検討やカンファレンス等で取り扱われています。しかし、普段の事例検討やカンファレンスの目的は、次の関わりをどのようにしていくかという点になります。その為、カンファレンスに参加した人は知識の積み重ねをすることが出来ますが、比較的流動的な知識となりがちです。

 一方事例研究まで昇華することで、対外的に自分の考えや看護の結果を整理し伝えることが出来、それを踏まえた新しい看護展開や体系作りに発展したり、またクリティカルシンキングが受けられ、洞察が深まることが期待できます。

 せっかく大切で価値のある関わりをしていることですから、じっくり腰を据えて、看護を提供する事でその人にとってどのような意味があったかを振り返ることをしてみてはどうでしょうか。

 

 本著はそういった事例研究をするために非常に実例的に活躍する本です。

 目次は次の通りです。Part1-3に沿って少しずつ紹介していきたいと思います。

 

Part1 なぜ「事例」を研究するの?

I 精神科看護にとって事例研究をする意味とは?

II 事例研究の方向性

Part2 こうすればできる!事例研究ー研究実例の検討

I 研究テーマをしぼり込む

II 論文を書くための整理と表現方法

Part3 研究論文のプレゼンテーションガイド

 

Part1 なぜ「事例」を研究するの?

  事例検討ではなく、事例研究にすることで、知恵の共有が行えるようになります。もし看護の関わりが達人が行えばよいだけであれば、知識の蓄積や共有は個人努力だけで済みますが、看護は個人プレイではなくチームで活動するものですから知識の蓄積や共有は必要です。特に、精神科看護でのコミュニケーションなどと言ったところは個人個人によってとらえ方や伝え方が違って、質の一定化が難しい反面、最も求められている部分でもありますから、研究によって共有していくことは大切なことです。

 精神科看護の特徴は、実験室では再現できないその「場」での出来事が研究の対象となる点にある。しかし再現できないものを研究と呼べるのかという疑問がわく。それはただの物語なのではないか。これは、看護の研究に常につきまとう批判の声だ。その「場」限りの名人芸を、経験をつんだ達人看護師だけが行えればよいというなら、研究は不要だろう。 しかし、私たちは専門家として、ケアの対象となる人々にある程度安定した、一定の室の高さをもったケアを提供する義務がある。(以下略)

 そのため、看護研究は意味のある事ですし、また事例研究が積み重なることで、更なる新しい展開にもつながりますし、関わりが難しい患者さんの対応について参考にすることが出来ます。事例研究が多く報告されることで、精神科看護の名人芸を一般技術化することが出来ます。これは患者さんにとって有益なことです。だから、事例研究には価値と意味があるということになります。

 

 しかしながら・・・ここが事例研究の難しいところですが、単なる「私の患者さんの物語」になってしまっては、せっかくの出来事も知識の共有が難しくなります。事例研究ではどういった点を押さえ、どの点について考えていけばいいのかを、次の章で実際の論文が修正されていく様を踏まえて解説されていきます。

 

Part2 こうすればできる!事例研究ー研究実例の検討

  この章は、ぜひ実際に手にとってじっくり読み込んで欲しいと思っています。

 2つの論文を題材に、事例研究においてどのような点が大事で、具体的にどこをどう修正していくのか、何をどう考え、とらえ、考察を深めていくのかを対話式と実際に論文の修正をもって表現されています。

 例えば1つ目の例ですと、「断薬に至った看護を振り返る」というタイトルの論文が、「告知後の「否認」を拒薬で表現された患者への看護ー患者の葛藤に気づけなかった事例を通してー」という形にまで変化していきます。めちゃくちゃ具体的な事例研究になってます。

 この2つの事例研究では「焦点を絞ることの大切さ」「手段より患者さんの理解を」「図、表にまとめる」「全く事例を知らない人もどんな人か分かるように情報をまとめ伝える」「論文の一貫性を持たせる」と言った重要なポイントを指摘され、修正されていく様が載っています。アセスメントの経過についても対話式に載っているため、考えるヒントにもなります。事例研究をやるならぜひ一読して欲しいところです。

 

Part3 研究論文のプレゼンテーションガイド

  いざ、発表する際にどういった点をまとめ、どのような表現をすれば伝わりやすいか等と言った点が紹介されています。特にパソコンが苦手であったり、あまり使う機会のない人には参考になる所だと思います。

 最後に

 事例検討と事例研究の比較が面白かったし、最初の論文が形式が整い、読みやすくなっていく様を追体験できる点が実践的で面白い本でした。精神科で事例研究を考えている人はぜひ一度読んでみてはどうでしょうか。 

 

精神科看護のための事例研究

精神科看護のための事例研究