精神看護「まごころ草とばいきん草」

精神看護に関する自分なりの覚書

リカバリー・退院支援・地域連携のための ストレングスモデル実践活用術 萱間真美 感想

 

リカバリー・退院支援・地域連携のための ストレングスモデル実践活用術

リカバリー・退院支援・地域連携のための ストレングスモデル実践活用術

 

 リカバリーの勉強の強化期間第2弾です。

これ、去年の6月に発売されたばかりの本でしたか。良く書店などでも展示されていましたし、うちの医療法人の訪問看護部門のスタッフは「ああ、この本ね。基本で定番ですよ。」なんて、多くのスタッフが知っていたのでもっと古典的な本と思っていました。

 

冒頭が素晴らしいので引用してから紹介します。

受け持ち患者さんが”夢”を語ったら、あなたはどうするだろう。 あなたが受け持つ田中さんは、夢が3つあると語ってくれた。「退院して、アパートに住み続けたい」。これは、入院する直前までアパートで暮らしていた田中さんにとって、とても現実的な夢だ。看護計画を立てるのにもすぐに役立ちそうである。どうすれば今後入院しないですむかを、一緒に考えればいい。 2つ目は「自分の車がほしい」だそうだ。ここで看護師の頭の中には疑問符が浮かぶ。生活保護を受けていて、今仕事をしていない彼に、これは可能なのだろうか。実現性の低そうな夢に、看護師としてどう反応したらいいのだろうか。 3つ目は、「いつか、自分の家がほしい」という。ここで、看護師の頭には赤信号がともる。これでは看護計画が立てられない。立てられたとしても、全く現実的でないものになってしまう。本気で家を建てられると思っているとしたら・・・妄想かもしれない!?

と始まり、その後看護計画を立てることを念頭に患者さんと対話していきます。なるべく、現実的なものを。そして患者さんのやる気をそがないようにと。

しかしながら車と家を手に入れる為には仕事をするべき→その為には規則正しい生活→まず現実的に朝起きて食べるということを目標にしよう、となってしまいます。 患者さんと看護師、ちぐはぐです。こういった思考回路の事を筆者は「看護師の自動翻訳装置」と呼び、注意喚起をしています。

 

さてこの「看護師の自動翻訳装置」とはいったいどこから現れたのでしょうか。それは、看護教育における「問題解決モデル」が成し遂げたものと筆者は説明しています。

「問題解決モデル」とは、患者さんの中にある問題を見つけだし、それを解決することを看護計画に上げることを指します。基本的に医学モデル、看護モデルはこの問題解決モデルです。問題解決モデルは問題を解決する可能性をアセスメントしたり何らかのリスクを未然に防ぐことを可能とする反面、生活を支える・本人の意思を支えることには向きません。特に、精神領域などの慢性期では延々と問題ばかりが浮上してしまい、支えにはなりません。

 

そこでストレングスモデルです。ストレングスモデルはその人自身の意思や意欲に基づいたケアプランが立てられること、場所を限定し無い事、その人自身が病気や治療に向き合うことを尊重することがメリットとなります。ただ万能ではなく、対話できない状態の人や生命の危機の状態には、既出の問題解決モデルが適応です。

ストレングスモデルを得ることにより、従来とは別の概念軸が生まれ、より多層的な看護の提供ができる事が最大のメリットです。

 

特に本著に例があるわけではないのですが、冒頭の例をストレングスモデルの適応をするならば、【今までアパートで暮らすことが出来ていたこと】、【入院により加療できていること】、【車が好きだということ】、【将来的に家を持ちたいという夢・意欲があること】、【言葉で思いを表現できているということ】、【生活保護という社会資源を活用できていること】などなど、沢山の強みを挙げることができます。生活保護を受けているからと言って家を持ちたいということを思うことが許されない、そんなわけはないのです。それは事実に沿っているように感じますが、看護師の思い込みです。意欲があるのだから、まずはアパートで暮らすことを再開する為に一緒に話し合いを続けること、必要な治療について話し合うこと、どのようなことが問題となっているか再確認することなど、ストレングスモデルの適応により様々な突破口が生まれていくことがストレングスモデルの適応の効果といえると思います。病識や服薬コンプライアンスと言ったことは手段であり、目的ではないわけです。

 

ちょっと脱線しそうなのでここで目次の紹介をして、各項目で印象に残った部分等の感想を述べていきます。

 

第1章 看護に必須の時代へ(ストレングスモデルの必要性やメリット、役割)

第2章 1 アセスメントの基本(ストレングスモデルの概念)

第2章 2 対話をする(ストレングスモデルで関係性を構築する)

第2章 3 ストレングスマッピングシートについて

第2章 4 行動計画・看護計画を立てる(本人と役割を分担する)

第2章 5 退院調整・地域連携に活用する

第3章 教育現場での実践活用法

 

第1章ではストレングスモデルの解説部分です。

ストレングスモデルとは、1990年代前半に米国カンザス大学の社会福祉学部教授、チャールズ・A・ラップらによって提唱された障害者への支援技法であり、発祥が地域であると明言されています。今の時代、精神医療でも地域での治療に時代が変わっています。入院生活に過度に適応されてしまった施設症が取り沙汰されていたり、また国も精神科のベッド数を減らすことを計画されたりしています。イタリアでは原則的に精神科病床自体がありません。

また現状でも精神科の病院での患者さんとのかかわりは”管理”と言われています。今の時代誰でも携帯を持っていますが、精神科に入院すると制限される事が多いんです。ベルトの持込にも制限がかかったりします。パソコンなんてもってのほかです。退院すれば全部身の回りに普通にあるんですけどね。

だから時折病棟看護師と地域スタッフとの間で対立が生まれることもあります。「看護師は、当事者が自分で生活を組み立てている生活の場に、病棟での管理を持ち込んでくる」「そんな中等半端な管理的な支援は、地域ケアでは不要だ」「せっかく退院して、自分の家で好きなように暮らせる日が来たのに、訪問看護師が家に来て、私の出来ないこと(問題点)ばかりを指摘し続けるなんて耐えられない!」と。

もちろん医療の提供は必要です。いくら薬を飲みたくないといっていても、毎日服用している薬を無視して関わっていたとしたら、夢を叶える矢先に、病状によってその夢が叶わないとしたら、その人にとっての損害です。医療的なかかわりや管理部分も幾分は必要です。ただし、全体ではないということです。リカバリーの為には、身体の状態のケアは不可欠なのであり、”夢に向かえる身体づくりをサポートすること”が、看護師の持つ独自の機能なのではないかと、筆者は述べています。

ストレングスモデルの活用の一つのツールに、ストレングスマッピングシートがあります。これは筆者である萱間教授が作ったもので、A4用紙1枚に収まるものです。引用するのは著作権上どうなのか判断に悩むので、医学書院の紹介ページをリンクしておきますね。非常に使いやすい印象のあるものです。

医学書院/週刊医学界新聞(第3192号 2016年09月26日)

ストレングスアセスメントシートというものも以前からカンザス大学のゴスチャ氏が作って提唱していますが、それよりもさらに軽く、対話のツールとして活用しやすいのがストレングスマッピングシートです。私も活用を始めています。

 

さっきからストレングスストレングスと、繰り返し述べていますが、このストレングスとはどういうとらえ方をすればいいのでしょうか。

ストレングスとは、リカバリーの一部分です。リカバリーとは前回の記事の通りですが、再度引用しますと、

リカバリーは、病気と闘うとか負けないとか、そういうことじゃない。疾患のことは脇に置いて、人として自分の人生をいかに過ごすか、自分で考え、行動している状態だ。そして「あの人なら私のことをわかってくれるはず」と思える人をもっている。小さくても人から期待されるような役割と目標があったり、自分の目的があり、達成感を味わっている。リカバリーとは、こんな人の歩みだ。

リカバリーの学校の教科書: 精神疾患があっても充実した人生を送れます!より

と、本来の自分であれる状態の事を指しています。それは誰かに評価されるようなものではなく、主観的に感じ取るものでもあります。

本著より、リカバリーを遂げた多くの人がたどる段階を紹介されており、レーガンリカバリーの4つの段階と呼ばれています。すなわち1)希望、2)エンパワメント、3)責任、4)生活の中の有意義な役割、です。

著者が提唱するストレングスマッピングシートは

1)希望          夢・目標欄

2)エンパワメント     これまでの出来事、強み、受けている治療、役立つ経験

3)責任          病気によって起こっていること、体の状態

4)生活の中の有意義な役割 子出までの出来事、役立つ経験、夢・目標欄

に、それぞれ該当すると考えられます。このプロセスを踏まえてリカバリーの段階を獲得する為の基礎としていくといえるでしょう。

 

ただ注意点があります。このストレングスマッピングシートを完成させることが目標ではないという点です。あくまでもこれはプロセス・対話が重要であり、このマッピングシートを活用することによって、”シートを使って対話することで、ストレングスモデルの方が体得できる”(空手の型のように、構えが態度をつくるという意味で)と筆者が述べています。大切なのは完成した形ではなく、患者さんとの”あいだ”です。

 

問題解決モデルで患者さんと関わることは、時として対立を生むこともあります。人から問題ばかり指摘され、それを直すように指導・教育されてしまえばそういう状態に至るのも仕方ないと思います。こういった状態のきつい”あいだ”を、”あわい”に変えていく手法の一つがストレングスマッピングシートを活用したストレングスモデルのかかわりなのではないでしょうか。

 

本著は第2章の対話の部分に最も項を割かれて解説されています。また豊富な実例も挙げられています。ストレングスモデルに興味のある方は、本著が非常に読みやすく実践に繋げられやすいものだと思いますので、非常にお勧めします。