精神科看護「まごころ草とばいきん草」

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精神科看護に関する自分なりの覚書

精神科面接マニュアル 第2版 感想

 

精神科面接マニュアル 第3版

精神科面接マニュアル 第3版

 

 

今出ているのは第三版ですね。

精神科では面接が非常に重要な治療の一つになっています。また診断をする際などにも不可避で、日々の関わりの指標にもなります。
看護向けの本もあるのかなと思いますが、まずは名著と言われる本著を読んでみようかなと思いました。

第二版は2006年に発行され、少し今とは解釈が異なる部分があるかもしれません。しかしながら今でも意味のある示唆が多く、手に取る価値はとても大きいのではないかと思います。

例えば、初回面接の項では
・治療同盟を構築する
・患者についての精神科基礎資料を作成する
・診断のために問診する
・患者と治療計画を取り決める

と、挙げられています。当たり前の手順なのかなと思いますが、きちんと患者本意であることが求められており、納得の手順です。
さらに、アメリカの本だからかもしれませんが、主張に一つ一つ出典が載せられています。初回面接の項で引用しますと、


複数の研究によって、患者の50%までが4回目の治療前に脱落することや、多くの患者が初回面接以後来なくなることが示されている。(Baekeland and Lundwall 1975) 治療からの脱落の理由はたくさんある。臨床家との関係がうまくいかなかった。そもそも治療意欲がもてなかった。また、初回面接だけでストレスに立ち向かう元気を得た、などの理由である。(Pekarik 1993) 結局のところ、初回面接では診断をつける以上のことが要求される。すなわち、治療同盟の構築、治療意欲の後押し、そして治療の取り決めが不可欠になる。

わかりやすく根拠を持ってまとめられており、納得ずくで読める文章です。
本著はこのような流れで様々な項目を解説されてます。


効果的な面接のための一般原則という項目では様々な技術が紹介されています。
患者を脅かす話題へのアプローチ、患者に思い出させるコツ、流れを損なわずに話題を変える方法、面接をいやいや受ける患者に対する技法、喋りすぎる患者に対する技法、詐病患者に対する技法、思春期の患者に対する技法、その他の厄介な状況に対する技法、診断面接に有用な精神力動論、と取り上げられています。

 

特にこの技法、技術がわかりやすく根拠もあり、すぐ腑に落ち、実践的でした。
例えば引用すると、

患者がいつ、どこで臨床家に接触することができるのかについて、限界設定(limit setting)を行うことによって臨床上の関係の境界を明確にしておく。これは早い段階で行うべきである。そうしなければ、いつかこの問題で苦しむことになる。

と、力動的精神療法家の「枠組み」の重要性について述べ、その後、初めての患者でパニック障害とうつを持つサリー(仮名)との苦い経験を例に上げ述べられてます。


枠組みを決めなかった結果、筆者はサリーにポケベルの番号を伝え、「いつでも」私に連絡できる方法と伝えました。その結果は想像に易く、休日夜間を問わず10分ごとに緊急!!との連絡が入り続けることになりました。
その後枠組みをスーパーバイザーと組むことで、パニックのたびに連絡を取るという強化条件がなくなり、結果としてパニック障害の頻度も減ったと述べられてます。

 

また別の項目では対話の技術をいくつか挙げられています。ひとつあげると、標準化。

標準化とは、繊細で戸惑いを感じやすい事柄扱う際に最も有用で広く用いられる技法、と紹介されています。

例えば「うつ状態になると、時として自分を傷つけることを考えるものですが、あなたの場合もそうでしたか?」や、「不安の為に物事を避けるーー例えば高速道路を走れない、スーパーマーケットに行けないとおっしゃる患者さんを多く診てきましたが、あなたの場合もそうでしたか?」など。

わりと、普段から使ってることなのかなと思います。ただ意識をすると、技術として活用することが出来るため、この本の指摘はありがたいものです。

標準化はもしかすると、受容的態度に近いかもしれせん。「それほどまでに強いストレスを感じれば、自分を傷つけたくなる気持ちが芽生えるのは無理からぬ話に感じます」だなんて言葉は、現場でよく見る表現ですよね。

 

その他に、診断面接に有用な精神力動論では、陰性転移や逆転移といった中々捉えにくい概念や防衛機制や対処反応について臨床的に学ぶことが出来ます。紹介文を引用します。

精神力動的な要素に注意を払っておくことは、診断面接を進める際に、いろいろな点で役に立つ。まず第一に、診断の正確さを増すのに役立つ。なぜなら、症状は往々にして、生活状況とそれに対する適応不全の産物であるからである。精神力動論は防衛機制を記述するのに卓越した用語体系を提供している。また、逆転移をいかにして生産的に利用するかを教えてくれる。第二に、精神力動の原則を理解しておくと面接自体を統御するのに役立つ。特に、患者が臨床家に陰性転移をもつ場合に有用である。第三に、防衛機制を理解しておくと、人格障害の診断に役立つ。これは第30章で詳しく扱う。

と、この章を踏まえるとさらに一歩前に進んだ精神科での関わりが出来るようになると言えます。例えば陰性転移の項目ですが、臨床でよくある具体例にされ、いくつか挙げられています。

「あなたはあまり役に立たない医者ですね」

「あなたは退屈そうですね」

「ただ黙って座ってうなずいているだけが、あなたのすることなのですか?」

「あなたはどんな資格をもっているのですか?」

「あなたは私が言ってることをあまり理解していませんね」

これらの言外の意味と考えうる反応を解説されています。どうでしょう、思いつきますか?私はちょっと難しい。そのまま受け取ってしまい、嫌な気持ちになります。

 

また防衛機制と対処反応についても深く濃く解説されています。

防衛機制にはいくつかの段階があり、抑制、ユーモア、昇華といった成熟した機制を使うことが望ましいとされています。その下の段階に否認、抑圧、合理化といった神経症的機制があり、さらにその下には解離、受動攻撃性、投影といった未熟な規制が。最下位には外的現実の否認や曲解が精神病的機制として提唱されています。

それぞれの項目について詳しい解説がありますが、さすがに引用するとあまりにもあまりなので、ぜひ読んでくださいという一言で結びます。

私たちもぜひユーモアや昇華といった成熟した機制を使っていきたいものです。また患者さんにもそういった対処方法があることを体系的に提案していって、有益な関わりにしたいと思います。

 

その他多くの学びを得ることが出来ますので、手に取ることがあれば、ぜひ読んでみてください。ちなみにサイズが小さく、12センチ×20センチくらいです。頑張れば白衣に入るんじゃないかな。いつでも振り返りたい本の一つです。