精神科看護「まごころ草とばいきん草」

精神科看護「まごころ草とばいきん草」

精神科看護に関する自分なりの覚書

I'm Not Awake

 タイトルは河合先生が第7回ISMSJ学術集会(2015年7-8月)でご紹介されていた、Neuroscience Education Instituteの動画です。

www.youtube.com

 これ1本で覚醒/睡眠の神経伝達物質の流れが理解出来る優れものです。

 ただ残念ながら私は英語がいまいち分からないし、脳の部位についても不勉強で分からないところがあったので細かく和訳して調べてみました。

 この記事が何かの役に立てば幸いです。

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【雑な対訳】

I'm not awake
Yeah I was in the dark
Then the light came on
Hit my RHT
And histamine came on so strong

朝になり目が覚める時、
光が網膜視床下部路RHTを刺激し
そしてヒスタミンが強烈にやってくる。*1

 

I'm wide awake
Hypocretin from
Hypothalamus
Stimulated me

I'm wide awake
And then the dream I had
was gone

ハイポクレチン(=オレキシン)は視床下部Hypothalamusから分泌され、
覚醒が刺激され、夢から覚める。*2

 

Basal forebrain
Is what happened next
Acetylcholine
To the cortex
PPT
LDT gush
Acetylcholine on
Thalamus

前脳基底部はハイポクレチンを受けて大脳皮質にアセチルコリンを伝達していく。
脚橋被蓋核PPTと背外側被蓋核LDTが視床に働きかけ、さらにアセチルコリンの分泌を湧き立たせていく。*3

 

VTA will shine
Dopamine levels get high
Norepinephrine comes
From locus coeruli
腹側被蓋野VTAは輝き、
大脳皮質のドーパミン水準を上げていく。
ノルエピネフリンは青斑核よりもたらされる。*4

 

Oh no I'm not asleep
Cause 5HT is up
From raphe nucleus
I'm wide awake
it hits the basal forebrain
woh

I'm wide awake
5HT will rush
The hypothalamus
Hypocretin hit
(It goes down)
And now it's sleepy time again

5HT(=セロトニン)がハイポクレチンに刺激された縫線核RNから分泌され眠れない。
5HTは前脳基底部も刺激。

あわせてセロトニン視床下部も刺激、LC青斑核からノルアドレナリンが出て視床下部を刺激。
ハイポクレチンが出て起きている状態を維持。
夜になり、再び寝る時間が来る。

 

I'm not awake
VLPO is
Now on the scene
I'm not awake
GABA is released
I'm not awake
It's getting hard to
Fight closing my eyes
Wake circuit is no more

腹外側視索前野VLPOは夜になると(光刺激がなくなった状態で概日リズムによって)
GABA作動性ニューロンが刺激される。
目を開けていられなくなり覚醒状態を維持できなくなり、再び眠りにつく。*5

 

・・・と言う動画でした。大変素晴らしいので参考にされてみて下さい。

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 ところで、ちょっとここと言うところに入れられませんでしたが、

近畿大学医学部の解剖学教室のホームページでは、体内時計の研究結果や解説などが行われており、大変わかりやすいので参考にしました。

http://www.med.kindai.ac.jp/anato2/

 

 ちなみにこのSCNに概日リズムがあり、どのような機序であるかを明らかにした米ブランダイス大学のホール博士とロスバシュ博士,ロックフェラー大学のヤング博士の3氏は2017年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。最新の研究分野なんですね。

2017年ノーベル生理学・医学賞:体内時計を生み出す遺伝子機構の発見で米の3氏に | 日経サイエンス

 

 今回はこういう形の雑多な感じの記事でした。参考になれば幸いです。

 

*1:

RHTはRetinohypothalamic Tractで、網膜視床下部路のこと。
網膜が受ける光刺激を直接視交叉上核SCNに届ける。
(ちなみにSCNに届けると言っても上半分だけで、下半分は刺激を受けず周期している)

LHは外側視床下部。Lateral Hypothalamus。 TMNは結節乳頭核。Tuberomammillary nucleus
ここでは簡略化するが、ヒスタミンはE1からE5まであり、TMNとかんたんに片付けたが腹吻側結節であったり背内側結節であったりと部位によって微妙に違うヒスタミン分泌となるようだ。

参考:

生体時計の生理学的、薬理学的、分子生物学的解析 秋山正志ら 日薬理誌 1998

視交叉上核 - 脳科学辞典
摂食と肥満における視床下部神経ヒスタミンの役割:創薬に向けて 千葉政一ら 日薬理誌 2016
レム・ノンレム睡眠と覚醒の制御機構 /柏木光昭ら 筑波大学国際総合睡眠医科学研究機構 2016

56. 睡眠の脳科学(1)睡眠中枢と睡眠のスイッチング - 論文・レポート

間脳のおはなし | 視床 | 視床上部 | 視床下部 | 松果体 | 脳下垂体 | 脳室・側脳室・第3脳室・第4脳室 - Akira Magazine

 

 

 

*2:

ハイポクレチンの作用対象は前脳基底部Basal forebrain、腹側被蓋野Ventral tegmental area;VTA、縫線核Raphe nuclues;RN、青斑核Locus cerulues;LC、 脚橋被蓋核Pedunculopontine tegmental nucleus;PPT/背外側被蓋核Laterodorsal tegmental nuclues;LDT。

前脳基底部は大脳で、記憶と睡眠に関連する。
腹側被蓋野は中脳で、報酬系の一部と考えられる。
縫線核は中脳から脳幹で、睡眠、歩行、呼吸等パターン的運動、注意・報酬等の情動、認知に関連する。
青斑核は脳幹で、覚醒、注意、情動に関連する。
脚橋被蓋核は脳幹で、学習、報酬に影響。上行性網様賦活系(reticular activating system in brainstem:RAS)の一部をなす。
背外側被蓋核も脳幹で、学習、報酬に影響。上行性網様賦活系RASの一部をなす。

参考:

脳幹のおはなし | 中脳 | 腹側被蓋野 | 赤核 | 橋 ・青斑核 | 延髄 | 小脳 | 皮質脊髄路 | 脳幹と関わる神経 - Akira Magazine

前脳基底部 - 脳科学辞典

縫線核 - 脳科学辞典

青斑核 - 脳科学辞典

脚橋被蓋核 - 脳科学辞典

脳幹網様体賦活系 - 脳科学辞典

 

 

 

*3:

アセチルコリンアセチルコリン系として中枢神経系で独立。各種神経伝達されれば心拍数低下、血圧低下、消化液の分泌促進、気管支平滑筋の収縮、縮瞳、眼圧低下、膀胱収縮(排尿)とつながっていく。
蓄積性はなくすぐ分解される。
運動神経の神経終末、交感神経副交感神経の神経節、副交感神経(迷走神経)の神経終末、交感神経(汗腺のみ)の神経終末に関与。→リラックス覚醒といえる。

参考:

中枢神経系のお話し | アセチルコリン系 | アドレナリン系 | セロトニン系 | ドーパミン系 | ノルアドレナリン系 - Akira Magazine

 

 

 

*4:

ドーパミンドーパミン神経系で独立。酸化還元によりノルアドレナリンに合成、基転移酵素でアドレナリンに合成されるなど形を変え、代謝されていく。各種神経伝達されれば運動中枢、報酬系、快楽、学習機能、記憶に関係している。→興奮系の覚醒といえる。
ノルアドレナリンノルアドレナリン神経系で独立。覚醒を促す。アドレナリンと同じでファイトホルモンとも呼ばれる。血管収縮、血圧上昇、心拍数増加、感覚入力の調節、注意力の上昇、長期記憶の促進などを行う。しばしばPTSDやパニックにも関係する。→興奮系危険学習覚醒と言える。

参考:

中枢神経系のお話し | アセチルコリン系 | アドレナリン系 | セロトニン系 | ドーパミン系 | ノルアドレナリン系 - Akira Magazine

ドーパミン〜文明を創った物質医薬品クライシスの作者さん)

ノルアドレナリン - 脳科学辞典

ノルアドレナリン神経の多様性を発見 | 理化学研究所

 

 

 

*5:
GABA作動性ニューロンが刺激されることにより、
大脳皮質BF、腹吻側結節乳頭核TMN、外側視床下部LH、縫線核RN、腹側被蓋野VTA、青斑核LC、脚橋被蓋核PPT/背外側被蓋核LDTを遮断。
結果、目を開けていられなくなり覚醒状態を維持できなくなる。

 

 


マンガでやさしくわかる 傾聴 古宮昇 感想

 自戒も込めて皮肉を言いますが、精神科看護師がついかんたんに使ってしまう専門用語TOP3をつけるとしたら、「傾聴」は間違いなく入ると思います。

 患者さんの話をうんうんと聞いて、あれこれさらっと返答をして、記録には「傾聴対応する」とか。自戒を込めて書いてます。

 

 看護学校でも「傾聴・共感・受容」は大切ですよ、という言葉はよく聞きました。しかし具体的方法については「そんなの看護師を目指すんだから当然できるでしょ?」的なオーラとオブラートに包まれていたように感じます。(被害念慮)

 卒後も傾聴とは「話をきちんと聞くこと」くらいにしか考えていませんでした。技法としても「傾聴的態度、オウム返し、要約」があるんだなあ、と思い、時々試しに使ってみるという程度。しかしながら傾聴の概念や理論をきちんと理解していないと技法は単なる付け焼き刃になってしまいます。手応えのなさにめったに使うことはありませんでした。

 恐ろしいことに、看護師が適切に技術や技法を身につけていなくても患者さんの本来持つ強さでなんとかなってしまうんですね。患者さんにおんぶにだっこです。

 

 しかしそれじゃイカンと思い、何かきちんとした本を読みたいなあと探していると、本記事の本に出会いました。

マンガでやさしくわかる傾聴

マンガでやさしくわかる傾聴

 

  古宮昇先生は大阪経済大学人間科学部の教授で、教養科目と実習担当をされているようです。さらっと論文を調べてみたところ、研究と言うより実践・講習の人のようですね。スピリチュアル心理学アカデミーというものを主催されているようですが、それについては明るくないので特にここでは語りません。

 なお著者のサイトはこちらです。

noborukomiya.seesaa.net

 

 本著は漫画とは言え、内容はしっかりと基本的な心理から発展まで描かれています。ここで概要を掴んで、次の本に移るなどしても良いと思います。

 本著は次の構成で進んでいきます。各章は漫画→本文と内容がわかりやすくまとめられています。

Prologue 傾聴って?

Part 1 「聴いてほしい」人の心のしくみ

Part 2 傾聴の基本

Part 3 傾聴の実践

 それぞれの章について感想を述べていきます。

Prologue 傾聴って?

 冒頭の漫画で、「耳かたむけ課」に突如任命された主人公が新任市長に言われた言葉が早速刺さります。

 「君は話を聴いていなかったよ」/「ただ自分の価値観を押し付けていただけだった」

と。

 話を聞くということは、単に言葉を拾うに過ぎません。また場合によっては自分の価値観を伝え、問題解決をすぐに図ろうとしてしまうこともありえます。

 それに対し話を聴くということは、言葉に載せられた相手の気持ち、感情も考え、その人となって理解し受容していく事になります。もちろん、自分の価値観を伝えること、すなわち「それはよい」「それはだめ」という価値判断をちょっと横に置いといて聴いていくことが必須となります。

 

 冒頭の漫画では、利用者の話を聞いた後、「それは○○課に行ってください」や「それはルールなので出来ません」等と価値判断をし、仕事を捌いていました。

 それは傾聴ではないということです。

 では傾聴とはどういうものか。読み進めていきます。

Part 1 「聴いてほしい」人の心のしくみ

 オウム返しなど技法をネットで調べ、傾聴にチャレンジするも撃沈。市長に愚痴りまくります。市長はそっと傾聴してくれます。

 「市長って私が怒ってもちゃんと聴いてくれるんですね…… 受け止めてもらえると素直に自分をみてまたやる気になりました」

 と主人公が傾聴の効果について実感します。

  この章で傾聴の技法をやってみたものの失敗した最大の理由は、「聴いてほしい」人の心のしくみが全く理解出来ていなかったからと語られていきます。

 人間の心の衝動とは、1)自己実現を求める衝動 2)無条件の愛情を求める衝動 3)変化を恐れ現状維持を求める衝動 4)表現を求める衝動 の4つがあると語られ、それぞれの詳しい内容が解説されていきます。

 それら人間の心の衝動を理解し、傾聴していく上で技法は役に立ちます。しかしそこは本質ではありません。本質ではないことを真似して見せてもできないわけです。では傾聴の本質とはなんでしょうか。

傾聴の根底には、人間の本質への信頼があります。

 と、本著では述べられていきます。

 つい人の話を聞いていてあれこれ言いたくなるのは、「他人を、自分が思う良い方向へ変えなければならない」という自分自身の価値判断が行っていることです。そこには十分な信頼はありません。

 聞き手側の持つコントロール欲を手放すことが必要となってきます。

 聞き手側のコントロール欲といっても、ああしてやろうこうしてやろうといった悪い気持ちではないです。「ちゃんとルールを守ることは大切なことだ」とか、「約束は守って欲しい」とか「いい母親とはこういう感じだから、伝えてあげよう」とか。そういうその人が持つ価値観です。冒頭の「ただ自分の価値観を押し付けていただけだった」とはそういうことです。

 

 傾聴って、かんたんに「傾聴は大事だよ!」なんて語っていましたが、かなり難しそうな技術ですね。

Part 2 傾聴の基本

 冒頭漫画では、共感と同感、共感と同情について語られていきます。(ちょっと長いですが大切なところなので引用させてください。)

 「たとえば不幸な話を聴いていると 自分自身も悲しくなり涙が止まらなくなることってあるよね」/「それは相手の痛みが自分の痛みに重なって自分自身の心も一緒に傷つき 痛みを感じてしまうからなんだ」/「こうなってしまうと相手はどんなに話を聴いてもらっても気持ちを切り替えて前に進むのが難しくなる」/「おそらく君自身も気が付かないうちに怒りの感情が根っこに芽生えたのかもしれない」/「もしかしたら自分も過去同じような体験をしていたとか・・・」

 傾聴をしていると自分自身の今までの生き様についても振り返る必要が迫られてきます。それこそ、幼かった頃のちょっとした不公平感などが未だに癒やされずに顔を出すこともあります。そうなってくるといわば”話し手に巻き込まれている”ような状態になり、適切な傾聴状態ではなくなってしまいます。

 では適切な傾聴ができる状態とはどのようなものなのでしょうか。筆者は次のように語られています。

 話し手のことを1人の独立した人間として尊重し、その人の感じていることや考えていること、伝えたいことを、あたかもその人自身のようにひしひしと、ありありと感じて理解するためには、人の痛みや苦しみに共感できると同時に、同感して感情に溺れてしまわない独立した自分自身が必要です。

 感情に溺れてしまわない独立した自分自身。おおっ、難しい・・・。

 別の例話を用いて筆者は「私は私。あなたはあなた。」を実感できることの大切さを説いています。

 これら傾聴の哲学を踏まえた上で、はじめて技法を知ることに意味が出てきます。

 本著で紹介されている技法は姿勢、応答(オウム返し)、感情を言葉にして返す、質問、があります。詳しい例題とともに紹介されていますから、このあたりはぜひ本著にあたってください。

 ちなみにこのあたりは心理士さんは充分に熟知されていますよね。そう、ロジャーズのクライアント中心療法の考え方です。セラピストなるもの、自己一致の範囲を広げていくことが治療の必須条件です。

Part 3 傾聴の実践

 ここまでの章で話に耳を傾けるという方法を解説されていました。

 この章では「話さない」というメッセージを傾聴する方法について語られていきます。

 「話さない」というメッセージは、何か話せない事情や感情があるのではないかと考え、急くことなく同じ時間・状況を共有することが基本と語られています。

 合わせて、傾聴の中に出てくる「質問」にも、単に答えるという方法は不適切だと語られていきます。

 傾聴の中で質問をされ、それを答えれば済むという状況は少なく、その質問の裏には様々な感情が秘められています。

 なので、「どうすればいいですか?」と放たれた言葉に耳を傾けるとき、「こうすればいいですよ」と答えるのは不適切です。そこには言葉に載せられた思いを聞けていません。

 では、どうすればいいのか?・・・詳しいところは本著に譲りますが、共感を持って相手の立場になり、考え、自己不一致を整えていくことが基本になります。 

終わりに

 「傾聴」とかんたんによく言いますが、めちゃくちゃ難しいですね。情報を整理すると、

 傾聴とは、人間の心の衝動を理解した上で、

 

1)肯定的な態度で相手に興味・関心を持つ

2)話の内容を自分のことのように感じ、共感する

3)共感できないところやわからないところは質問し、納得(自己一致)していく

 

 という技術になります。

 そして基本的な態度として

 

ア)自分の価値観を押し付けない、決めつけない

イ)技法に頼らない

ウ)同感、同情していないか自分の感情を観察し続ける

 

 ことが必要とされます。これ、やっぱり「傾聴・共感・受容が大事!」の一言で片付けられるものではないです。じっくり学び、グループワークやディスカッションを受けていく必要がある気がします。んー、そういう経験がなかったことが残念。

 その分、本著をはじめとした書籍で勉強し、今からでも技術を身につけていきたいと強く感じました。漫画なので場面の想像がしやすく、大変おすすめです。

マンガでやさしくわかる傾聴

マンガでやさしくわかる傾聴