精神科看護「まごころ草とばいきん草」

精神科看護「まごころ草とばいきん草」

精神科看護に関する自分なりの覚書

看護研究についての自己学習ノートその4

続きです。

1)研究テーマ
2)研究の動機
3)研究の背景
4)目的
5)意義
6)研究方法
7)文献
8)作業計画

今回の記事では4)目的 5)意義について話せればと思います。

 

前回の記事を参考に、ちょろっと論文を探してみましたでしょうか?
論文は、今までの論文を参考にしたり引用したりして作り、参考や引用が出来ない部分について研究するのがオリジナリティになります。”使えそう”な論文をぜひ見つけてくださいね。

では4)目的 5)意義です。

 

4)目的
目的はこの研究によって明らかにしようとしていることは何かということを書きます。
この目的がめちゃくちゃ大事で、今後実際に研究を進めていく時に何度も何度も、この目的の部分に振り返って戻る必要があります。看護研究を一貫性を持って進めるために必要な指標になりますから、よくよく話し合って進めてください。


例えば前回の例の論文では、

本研究の目的は,熟練看護師の視覚による観察のうち注視に注目し,新人看護師との比較から,熟練看護師の注視の特徴を明らかにすることである.

熟練看護師のベッドサイド場面観察時の 注視の特徴 大黒理惠 齋藤やよい 2017 日本看護技術学会誌 Vol. 15, No. 3 5

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnas/15/3/15_218/_pdf

 

と、新人と熟練を比較して注視の特徴を明らかにする論文ですよと明言されています。
この目的があるから、注視には量的な差がありましたよ、という結果にたどり着くことが出来ます。ここで何をするかしっかりとしましょう。

勝手な推測ですが、この研究のとっかかりとしては「新人看護師と熟練看護師って観察ポイントが全然違うよね」「そだよね、新人だと気づかなかったりすることってあるよね」みたいな、軽いスタンスで始まったんじゃないかなと思います。それをそのままにしておくと、「そうだよね、やっぱり年数を経てベテランになってくもんね」で終わってしまいます。そこをしっかりと科学的に追求することが看護研究です。

そこから、具体的に観察ポイントが違うってどういうこと?新人とベテランだと見てる量が違う?それとも質が違う?量が違うだけなら多ければ多いほどいいの?不要な情報もあるんじゃ?じゃあ、質?質なら、具体的にどういうものが差として出るの?特徴が違うんじゃない?じゃあ、特徴が違うとしたらそういった類似の研究はあるのかな?・・・というふうに考えられたんじゃないかな、と。こういった思考プロセスを経て、研究目標はできていくと思います。

 

以前お勧め文献としてあげた、南裕子さんの看護における研究で、次のように記載されています。


「研究目標」(注:研究目的と思ってもらってもいいです)とは、その研究で何を明らかにしようとしているか、どこまで到達することを目指しているかを示すものであり、その研究が終了した段階で「答え」を出せるようなことを掲げている必要がある。(中略)目標が書かれていない場合には製作者の意図が伝わらなかったり、誤解されたりすることがあり、注意を要する。研究目標は研究計画書の道筋を指し示すガイドの役割を行う。

看護における研究

看護における研究

 

 とまあ、このような感じで、とても大切ですし、研究計画書を頑張って作れば論文のほうに流用できたり骨格になったりするのでとっても意味のある作業です。くじけず頑張ってください。


5)意義
意義では、こんなふうに患者さん/スタッフにとって役に立つ研究をするんですよー、ということが伝えられればいいと思います。

看護研究は公益性の高いことをすることが原則ですので、個人的理由で気になるので調査しますとかは良くない、ということです。
前回挙げた、a')転倒転落場面における熟練看護師と新人看護師の注視の量的な差を明らかにする、を使用して意義を説明すると、
転倒転落場面における熟練看護師と新人看護師の注視の量的な差を明らかにすることにより、注視する量の目安が分かり、もって患者の安全安楽を守るための教育資料となりえる。なんていう形にするといいのかなと思います。

よく使う表現は上記のような教育資料となりえる、とか基礎資料になりえる、とかアプローチの指標になりえる、とかの結びを使うといいんじゃないかなと思います。

 

目的と意義なんですが、ここをしっかりと見定めて、どんなことが知りたいか/どんなことになると仮定しているか/どのような関連が認められると考えているか、など文章化してください。ほんとに何度も繰り返して申し訳ないですが、ここが一番大事です。ここがきちんとしたら、次の研究方法に進めます。

 

こんな感じで今回の記事は終わります。

次回は研究方法です。これがまた・・・大変なんですが・・・。

研究の基盤になりますから、何とか頑張って説明できればと思います。

続きます。

看護研究についての自己学習ノートその3

続きです。

 

1)研究テーマ

2)研究の動機

3)研究の背景

4)目的

5)意義

6)研究方法

7)文献

8)作業計画

 

この記事では前回の予告と違って、3)研究の背景だけ説明していこうと思います。

 合わせて研究の背景を説明するために、文献検索の必要性と行い方についての話もしたいと思います。

 

・研究の背景

ここでは、今回取り上げるテーマに対して、これまでどのような研究が行われていて、そのテーマは看護にとってどのような意味があるかを明らかにしていく部分になります。

前回に引き続いて、a)熟練看護師と新人看護師の観察力の違い、を例に取り上げて説明します。

新人看護師と熟練看護師とでは観察力が違うことは、体感的に分かります。熟練看護師の方が基本的には多くの観察を行い、危険や状態の予測を行うことができますね。ではそれを科学的・論理的に説明するとなると、どうすればいいでしょうか?

看護研究とは、科学的なアプローチの一つです。ですから再現性・妥当性・一貫性がとても大切になります。「熟練看護師の方が長年の技術や経験やカンや才能があるから、違うんだよ」という説明にとどまってはなりません。面倒ですがこれを科学的な説明に直さないといけません。

すなわち、観察力という言葉を別の表現に変えないといけません。なぜならば、観察力という言葉に再現性・妥当性・一貫性がないからです。例えば観察力を、「注視の量的な差」「注視の質的な差」「判断の優先順位の違い」辺りにすればどうでしょうか。これなら具体的に何が違うか、どう違うか、どのように違うかが比較検討しやすく、わかりやすくなったのではないでしょうか。

しかしながらこれだけでは実は不十分で、観察項目と優先順位を決めるだけではなく、どのような場面を想定しているかも設定しないといけません。例えば上記のままだと、看護の現場は多岐にわたりますから食事介助の場面での差かもしれませんし、ルート確保の場面かもしれませんし、急変時対応かもしれません。そうやって設定場面が違ってくると現れて来るデータにも差が出てきますし、再現性・妥当性・一貫性が伴いません。ですから「転倒転落場面での注視の量の差」に設定するとめちゃくちゃ科学的になります。

上記より、a)熟練看護師と新人看護師の観察力の違い、は「転倒転落場面」における「熟練看護師」と「新人看護師」の「注視の量的な差」を明らかにすることに設定しなおすと、科学的な表現になりますね。

じゃあそんな研究ってすでにされてるのかなと、調べていきます。

 

まあ実はあるんですけどね。

熟練看護師のベッドサイド場面観察時の 注視の特徴 大黒理惠 齋藤やよい 2017 日本看護技術学会誌 Vol. 15, No. 3 5

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnas/15/3/15_218/_pdf

です。というわけで、おしまい!となってしまっては研究になりません。(ありがちなんですが・・・)

ちょっと視点をずらさないといけませんね。例えば、上記技術はどのようなプロセスで技術獲得していくか、という事を明らかにすることや、救急場面に設定を変えて新人と熟練とで比較をするとか・・・。色々方法がありますから、めげずに色々調べていってください。

研究の背景では、このように今まで調べて研究されていることを明らかにしていき、まだ研究されていない、または不十分な事柄についても明らかにして、今回の研究はこんな感じに意味のある事なんですよ、新しいことを言っているんですよ、ということを説明していく流れになっていきます。

 

さて、そんな研究の背景を書いていくためには、既存の研究を調べていかないといけません。

看護の論文ってどうやって調べていけば・・・?

 

・文献検討のために論文を調べる

実はとっかかりとしては簡単。グーグルスカラーでちょろっと検索をかけてしまえばいいんです。

https://scholar.google.co.jp/

例えば「看護」「観察」で検索をすると29,300件の論文が出てきます。これらすべてが誰でもタダで内容すべてを閲覧できるわけではないのですが、いくつかはpdfフリーで閲覧ができるものがあります。そういったものをまずは引っ張って来て読むだけで、ある程度の背景を作り上げることができます。

ちなみにグーグルスカラーは看護や医療だけの論文が出てくるわけではないので、例えば「能動態」で検索すると

地域的・類型論的観点からみた無生物主語について : HUSCAP

なんていうなんだかおもしろそうな論文が出てきます。が、看護とは直接関係ないですね。

そういったものを取捨選択して、まずはいくつか自分の研究テーマと近い論文を引っ張ってくると良いと思います。 

 グーグルスカラーを紹介しておいてなんですが、私が好きでメイン使用しているのは

医学文献検索サービス -メディカルオンライン

メディカルオンラインです。会員制で、有料にはなってしまうんですが、病院によっては提携してくれている所もあって、そういうところではなんぼでも論文読み放題です。しかも医学や看護雑誌もデータ化されてるので、ざっと見するのに便利です。日本精神科看護協会に入っているとIDとPASSがもらえるので、それでアブストラクトだけは読めます。

 とりあえずのところは、あまり難しいことを考えずに、みんなで話し合った研究テーマを単語にして検索していってみて下さい。自分たちが知りたかったこと全てが論文に載っていて、しかも納得のいく結果が出ていればそれまでですが、思っていることと差が出てくることが多いと思います。それを看護研究のテーマとして使っていきましょう。

本当はここで出来るだけたくさんの論文を検索して文献検討をしていっぱい参考にしていくことが論文の妥当性を上げていくために必要なのですが、まずは3つほどの論文だけでいいのかなと思います。3つほど、自分たちの研究テーマに近い論文を出してみて下さい。

その論文で明らかになっている点と、そうでない点を簡単にまとめて、「先行研究ではここが明らかになっていない為、本研究ではこの点について明らかにすることを目的とする」と結べば、とりあえず研究の背景が出来ます。まずは形を整えていくほうが先が見えやすいと思いますから、それで進めてみてください。

 

続きます。次回こそ、今回省いた4)目的5)意義の2つをやっていきます。