精神科看護「まごころ草とばいきん草」

精神科看護「まごころ草とばいきん草」

精神科看護に関する自分なりの覚書

看護研究についての自己学習ノートその3

続きです。

 

1)研究テーマ

2)研究の動機

3)研究の背景

4)目的

5)意義

6)研究方法

7)文献

8)作業計画

 

この記事では前回の予告と違って、3)研究の背景だけ説明していこうと思います。

 合わせて研究の背景を説明するために、文献検索の必要性と行い方についての話もしたいと思います。

 

・研究の背景

ここでは、今回取り上げるテーマに対して、これまでどのような研究が行われていて、そのテーマは看護にとってどのような意味があるかを明らかにしていく部分になります。

前回に引き続いて、a)熟練看護師と新人看護師の観察力の違い、を例に取り上げて説明します。

新人看護師と熟練看護師とでは観察力が違うことは、体感的に分かります。熟練看護師の方が基本的には多くの観察を行い、危険や状態の予測を行うことができますね。ではそれを科学的・論理的に説明するとなると、どうすればいいでしょうか?

看護研究とは、科学的なアプローチの一つです。ですから再現性・妥当性・一貫性がとても大切になります。「熟練看護師の方が長年の技術や経験やカンや才能があるから、違うんだよ」という説明にとどまってはなりません。面倒ですがこれを科学的な説明に直さないといけません。

すなわち、観察力という言葉を別の表現に変えないといけません。なぜならば、観察力という言葉に再現性・妥当性・一貫性がないからです。例えば観察力を、「注視の量的な差」「注視の質的な差」「判断の優先順位の違い」辺りにすればどうでしょうか。これなら具体的に何が違うか、どう違うか、どのように違うかが比較検討しやすく、わかりやすくなったのではないでしょうか。

しかしながらこれだけでは実は不十分で、観察項目と優先順位を決めるだけではなく、どのような場面を想定しているかも設定しないといけません。例えば上記のままだと、看護の現場は多岐にわたりますから食事介助の場面での差かもしれませんし、ルート確保の場面かもしれませんし、急変時対応かもしれません。そうやって設定場面が違ってくると現れて来るデータにも差が出てきますし、再現性・妥当性・一貫性が伴いません。ですから「転倒転落場面での注視の量の差」に設定するとめちゃくちゃ科学的になります。

上記より、a)熟練看護師と新人看護師の観察力の違い、は「転倒転落場面」における「熟練看護師」と「新人看護師」の「注視の量的な差」を明らかにすることに設定しなおすと、科学的な表現になりますね。

じゃあそんな研究ってすでにされてるのかなと、調べていきます。

 

まあ実はあるんですけどね。

熟練看護師のベッドサイド場面観察時の 注視の特徴 大黒理惠 齋藤やよい 2017 日本看護技術学会誌 Vol. 15, No. 3 5

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnas/15/3/15_218/_pdf

です。というわけで、おしまい!となってしまっては研究になりません。(ありがちなんですが・・・)

ちょっと視点をずらさないといけませんね。例えば、上記技術はどのようなプロセスで技術獲得していくか、という事を明らかにすることや、救急場面に設定を変えて新人と熟練とで比較をするとか・・・。色々方法がありますから、めげずに色々調べていってください。

研究の背景では、このように今まで調べて研究されていることを明らかにしていき、まだ研究されていない、または不十分な事柄についても明らかにして、今回の研究はこんな感じに意味のある事なんですよ、新しいことを言っているんですよ、ということを説明していく流れになっていきます。

 

さて、そんな研究の背景を書いていくためには、既存の研究を調べていかないといけません。

看護の論文ってどうやって調べていけば・・・?

 

・文献検討のために論文を調べる

実はとっかかりとしては簡単。グーグルスカラーでちょろっと検索をかけてしまえばいいんです。

https://scholar.google.co.jp/

例えば「看護」「観察」で検索をすると29,300件の論文が出てきます。これらすべてが誰でもタダで内容すべてを閲覧できるわけではないのですが、いくつかはpdfフリーで閲覧ができるものがあります。そういったものをまずは引っ張って来て読むだけで、ある程度の背景を作り上げることができます。

ちなみにグーグルスカラーは看護や医療だけの論文が出てくるわけではないので、例えば「能動態」で検索すると

地域的・類型論的観点からみた無生物主語について : HUSCAP

なんていうなんだかおもしろそうな論文が出てきます。が、看護とは直接関係ないですね。

そういったものを取捨選択して、まずはいくつか自分の研究テーマと近い論文を引っ張ってくると良いと思います。 

 グーグルスカラーを紹介しておいてなんですが、私が好きでメイン使用しているのは

医学文献検索サービス -メディカルオンライン

メディカルオンラインです。会員制で、有料にはなってしまうんですが、病院によっては提携してくれている所もあって、そういうところではなんぼでも論文読み放題です。しかも医学や看護雑誌もデータ化されてるので、ざっと見するのに便利です。日本精神科看護協会に入っているとIDとPASSがもらえるので、それでアブストラクトだけは読めます。

 とりあえずのところは、あまり難しいことを考えずに、みんなで話し合った研究テーマを単語にして検索していってみて下さい。自分たちが知りたかったこと全てが論文に載っていて、しかも納得のいく結果が出ていればそれまでですが、思っていることと差が出てくることが多いと思います。それを看護研究のテーマとして使っていきましょう。

本当はここで出来るだけたくさんの論文を検索して文献検討をしていっぱい参考にしていくことが論文の妥当性を上げていくために必要なのですが、まずは3つほどの論文だけでいいのかなと思います。3つほど、自分たちの研究テーマに近い論文を出してみて下さい。

その論文で明らかになっている点と、そうでない点を簡単にまとめて、「先行研究ではここが明らかになっていない為、本研究ではこの点について明らかにすることを目的とする」と結べば、とりあえず研究の背景が出来ます。まずは形を整えていくほうが先が見えやすいと思いますから、それで進めてみてください。

 

続きます。次回こそ、今回省いた4)目的5)意義の2つをやっていきます。

看護研究についての自己学習ノートその2

というわけで、この記事から、前回の看護研究についての自己学習ノートその1から内容を引き継いで、雛形をひとつひとつ説明していきます。今回の記事では1)研究テーマ2)研究の動機、の二つを解説します。

1)研究テーマ

2)研究の動機

3)研究の背景

4)目的

5)意義

6)研究方法

7)文献

8)作業計画

 

1)研究テーマについて

テーマは前回の記事でもお伝えしたとおり、自分が普段実践で興味があったり、疑問があったりしたことについてを仮に挙げればいいのかなと思います。

そのテーマの挙げ方についてですが、一人で看護研究をされる方はメモやノートに、複数人で看護研究をされる方は付箋にテーマを挙げていくといいのかなと思います。

付箋にテーマを挙げていく方法ですが、ブレインストーミングという方法がありまして、1つの付箋に1つの情報を書いて行き、思った事が出なくなったらグループ皆で付箋を似たグループに分けていくというものがあります。

ブレインストーミングをすることによって、共同での興味や関心が挙げられますし、また自分が全く気付いたり興味を持っていなかったりした事柄について知ることが出来ます。

この作業をする上で大切なことは1つ。何を挙げられても決して批判的・抽象的・否定的な意見を言わないということです。その約束事の上にブレインストーミングを行えば、自由な意見がどんどん出てくると思います。

皆で挙げて、分類した後はひとつ一つ内容を検討していきます。

たとえば、「糖尿病薬の選択の違いについて」なんていうメモだとすると、興味を持っていることは事実です。しかしながらそれは調べればわかります。その為研究テーマにはなりません。

そうやって調べたらすぐわかることについてはこの検討で外していきます。

その結果何か残ったものが研究テーマになりそうなものです。ここでは仮に、a)熟練看護師と新人看護師の観察力の違い b)自己肯定感と薬物療法の相関とします。

この、研究テーマは論文になる際、論文のタイトルとなるものです。ですから、最後の最後まで(仮)で行きましょう。論文タイトルは、論文の顔です。とっても大切。

 

2)研究の動機

研究の動機には、何故研究テーマについて疑問に思ったのか、ということを書きます。

a)熟練看護師と新人看護師の観察力の違い、なら、普段業務を行っている中でやっぱりベテランさんのほうがよく観察しているし患者さんの変化にも敏感に気付いている。何が違うんだろう?それが分かれば、観察力を上げて患者さんの利益になるんだけどな。

b)自己肯定感と薬物療法の相関、なら、薬物治療の中で内服行動が上手くコントロールできている人とそうでない人がいる。なんでだろう?もしかしたら、自分のことを大事に出来ていないのかな。自己肯定感ってのが影響しているかもしれない。その点が明らかになれば、単に教育を行うだけでなく、自己肯定感の高低によって教育方法を変えれば、より効果的な薬物教育が行えるかもしれない。

というような内容で、はじめは簡単に書いていけばいいのかなと思います。今後この研究の動機は、論文の中で「はじめに」のところに影響していきますし、その中で引用論文がいくつも必要になってくる部分です。とても大切。

とりあえずはそういった感じで、テーマを出して、そのテーマを挙げた理由を書いていけば、研究はもう取り組み始めている、といえるんじゃないでしょうか。

 

次回記事では3)研究の背景 4)研究の目的 5)研究の意義、について書いていこうかなと思います。

続きます。