精神科看護「まごころ草とばいきん草」

精神科看護「まごころ草とばいきん草」

精神科看護に関する自分なりの覚書

フィッシュ!哲学 文献紹介

フィッシュ!哲学系記事、第5弾。だいぶ長くなってしまってます。

今回は色々な文献や論文を見てみようの回です。

あんまり多くの文献を見つけることは出来ませんでしたが・・・。

 

雑誌 看護 2006年9月

イキイキと働ける職場環境づくり 「フィッシュ!哲学」の導入を試みて

東京慈恵会医科大学付属病院看護部長 大水美奈子

 前文を引用すると、

東京慈恵会医科大学付属病院では、2004年9月より、職場の活性化に効果を上げるといわれる「フィッシュ!哲学」の考え方を基にした、魅力的な職場環境づくりに取り組んでいる。本稿では、導入から現在に至るまでの活動内容を紹介する。

と、ここからフィッシュ!哲学が日本に広まりはじめました。

内容としては、

「教育改革はプログラムの見直しなどハード面の変更だけでは成立せず、運用するソフト面(人材)も同時に見直していくことで教育効果も上がると考えた。”仕事を愛するようになると、限りなく幸せになり、意義のある充実した毎日をすごすことができる”。一般に成人は、目覚めている時間の75%を仕事に関連した活動に費やしているからだ。」と、はじまり、フィッシュ哲学の大枠と実例を紹介しています。

結びに「フィッシュ導入前の2003年度と導入後の2005年度で、看護師職務満足度調査の結果に差が出ている。満足度にプラスの優位さが見られたのは7項目あり、うち4項目は人間関係に関するものであった。退職率にも良い変化が現れており、2003年度の16.8%に対して2005年度は12.5%であり、新人の定着率は97%であった。」と結果を報告しています。

フィッシュ哲学について雑誌に載った有意義な資料です。

 

 

雑誌 看護 2008.5月臨時増刊号

魅力ある職場環境をつくる アメリカ研修を基にフィッシュ!の導入を試みて

東京慈恵会医科大学付属病院看護部長 大水美奈子

2年後にも フィッシュ!増刊号として雑誌で特集されています。

大きな追加点としては、フィッシュ!おかわりの「見つける、実行する、コーチする」の概念も取り入れているという点が挙げられます。継続してフィッシュ哲学を行われていて、読んでいても気持ちの良い活動報告です。

 

雑誌 看護 2008.5月臨時増刊号

人事課から見たフィッシュ! フィッシュ!を活用し看護要員を確保

学校法人慈恵大学人事部人事課課長補佐 山口喜一

人事から見たフィッシュ!の意義が述べられている面白い記事です。あくまでも人事から見たらこんな感じに意味はあるな、という感じの観察記事であり、人事がフィッシュを導入したら、という話ではないのは注意。指摘にある「フィッシュが導入されているから、新しい環境で精神的に不安な看護師に良い。そのこともまた宣伝効果となる」という点が、印象的です。 

 

雑誌 看護 2008.5月臨時増刊号

フィッシュ!をキャリアラダー研修に導入 コミュニケーションの基本に位置づけ

東北大学病院副看護部長 門間典子 ほか

他院でもフィッシュが採用されたという記事です。教育担当の看護部長から筆頭にフィッシュ哲学が導入され、各師長がどのように反応しているかが感想によって述べられており面白い記事です。個人的にちょっといいな、と思ったのは「急患ツイテルね、ランキング(あなたが救世主)」という制度で、入院を受けた人がポイントを獲得し、何ポイントか溜まったら粗品(ジュースとか、希望のところに連休とか)をプレゼントしてもらえるというものです。しんどい入院受けにちょっとしたご褒美があると、私は単純なのでうれしく思いますね。 

 

2011年 第36回日本精神科看護学会 第9群40席

精神科療養病棟におけるスタッフの仕事に対するジレンマへの取り組み フィッシュ哲学導入で当病棟が泳ぎはじめた

神奈川県 財団法人積善会日向台病院 福本真也 川上裕子

4か月間、職業性ストレス簡易調査票を用いてフィッシュ導入前後の比較をしています。それと同時にカンファレンスを実施して振り返りを行っています。その2点を合わせて考察し、結論としていい意見と悪い意見が出たとまとめています。

おわりに、フィッシュ哲学を導入したばかりであり今後も継続したいと結んでいます。

 

2011年 第36回日本精神科看護学会 第9群41席

意欲をもてる職場づくりをめざして フィッシュ導入を試みる

岩手県 財団法人岩手済生医会岩手保養院 藤田真由美 佐々木聖 石杜淳

2007年12月から2009年7月までの約2年間、看護師の仕事意欲測定尺度の調査を前後に実施し、次いで自由記述式にフィッシュの感想を記載してもらうことで導入前後の比較をしています。考察にて仕事に対しやりがいを実感するよう変化してきたと述べています。結論としては仕事意欲向上に有効であることが示唆されたとあります。

 

2013年 第38回日本精神科看護学

第15群74席

フィッシュ哲学を基に職場を活性化する 精神科急性期治療病棟におけるストレス症状の把握と対策

島根県社会医療法人昌林会安来第一病院 池田智史 青戸結依子 田邉勝志 矢田敦子

3カ月間での調査ですが、フィッシュ導入前後の比較を精神科における看護者のストレス要因と、追加項目を入れて行っています。考察にて、「業務中にスタッフが抱いている思いの中には、コミュニケーション不足、協力体制への不十分さがあった。それは自分の意見をため込み、スタッフ間での緊張した関係に結びついていたのではないかと考える。そして、他者へのストレスや仕事に対してのモチベーション低下につながっていたのではないかと考える。」とあります。なるほどそうなのかなと思います。そうであるならば、フィッシュ哲学の導入は有効な手段と言えるでしょう。

 

雑誌 看護 2013年3月臨時増刊号

”フィッシュ!哲学”を取り入れた新人看護師教育

横須賀共済病院 野口和子

これは記事なのですが、 教育ラダーにフィッシュ哲学を盛り込んだという話です。今、ホームページを見たのですが、特に今はフィッシュと銘打っている項目はありませんね・・・。ただ、制服がいくつかから選べるなど、遊びの要素は残っているように感じます。

制度化を行うことで、法人全体で取り組みますよ、というメッセージが浸透し、各職員のフィッシュへの取り組みのバックアップにつながるだろうなと読んでいて感じます。最後の部分にフィッシュが形骸化しないよう仕掛けていくことが今後の課題とあります。哲学は今も生きているでしょうか。

 

それと最後に論文で、

産業ストレス研究19,389-400(2012)

[活動報告]看護職員におけるフィッシュ哲学の概念を基盤とした職場環境改善ー自由記述の質的分析を通してー

筑波大学大学院人間総合科学研究科 黒田梨絵 筑波大学医学医療系 三木明子

読みごたえがあり根拠や出典も潤沢に記載されており、勉強になります。良いです。

本研究では、フィッシュ対策の実施プロセスとして、研修会2週間前から各部署に書籍を看護部で購入し回覧。 外部講師によるフィッシュ哲学の概念に関する研修会を開催。ビデオ研修とその後参加者に対し各部署の師長からサンキューカードをサプライズで用意。その後、部署ごとにフィッシュ対策シートの使用方法を説明し導入開始。1か月後情報交換会を実施。その1か月後、師長と主任が集まり検討会を実施。3カ月間の経過を見た。

その後看護職員を対象に無記名式自記式質問紙調査の実施。基本属性のほか、良かった点と悪かった点を記載してもらう。その後自由記述分析は肯定的評価、否定的評価の2つに分けカテゴリ化の実施。スーパーバイズを受けながら2名の研究者間で7回の検討を行ってもらっている。

結果、人間関係の改善、モチベーション向上、前向きな思考・行動変化といった肯定的評価と、不明確な病院の方針、負担が増大する、不明瞭な成果といった否定的評価が表出した。

と、フィッシュ哲学導入による結果が明らかにされています。

フィッシュ哲学はなぜいいのか、どういった点がネックとなるのか、取り組みを提案された一般職員はどのような反応をするのかが明確となり、論文のレベルは活動報告となっていますが、有益なものとなっています。手にすることが出来るなら、読んで欲しいですね。

(黒田さん、2017年の今は健康科学大学助教になってるんですね)

 

全体を通して、一つ残念なのは、慈恵会以外の病院では、2017年現在フィッシュ!哲学が継続して導入されている様子が見受けられなかった点です。せっかくやって、効果があったと記事にしているのですから、そのまま続ければいいのに・・・。と、思います。しかしながら、フィッシュ!おかわりで記載されている通り、元に戻る引力はこうも強いんですね。文献を調べてて実感しました。

また、導入するための流れを構造化するという点は重要なのかなと感じました。フィッシュ哲学は自主的に発生するものという点がエンパワメント的であり大切ではあるのですが、それを制度として導入するなら、構造化は必要なことなのではないかと思います。その点、新人教育のラダーに導入するなど、仕組化することは有意義だと感じます。

黒田さんの論文でもあるように、不明確な病院の方針はそれだけでもやる気を損なうものです。やるなら、本腰を入れて、全体的に。

個人的に思いますが、看護部だけでこれを終わらせてしまうのはもったいなすぎます。病院とは他職種との連携が要ですし、看護師ってそもそも他職種との調整役にもなるはずです。看護部だけでフィッシュをやっていては、意味は薄いのでは・・・。だから、総務や医事課、連携室やOT、医師も巻き込んでやった方が、より効果的なんじゃないでしょうか。それにより、SBARの導入も容易になりますしね。

導入するための計画立案が重要そうですね。ぽっとで入れればぽっとで消えてしまいそう。

 

フィッシュ記事ばかりで埋まってしまうので、これでフィッシュ記事は終わりにします。

 

私個人の感想としては、フィッシュ哲学そのものはいいな、と思うんですが、導入するなら3年とか、5年とか、まとまった期間の実施をあらかじめ計画しておかないと付け焼刃なだけなのかなと思います。短期的には成功体験でも、長期的に見れば失敗体験になりそうです。

また、導入する際、その間同じ人がフィッシュ担当者となって率先する必要も感じます。担当者だけが頑張っていては意味もありませんから、病院組織全体としてそれを継続する仕組み作りも必要なんじゃないかなと考えました。

やるならしっかりガッツリ入れないと、しんどくて意味のないものになってしまいそうですね。

フィッシュ!おかわり-オフィスをもっとぴちぴちにする3つの秘訣 感想

 

フィッシュ!おかわり―オフィスをもっとぴちぴちにする3つの秘訣

フィッシュ!おかわり―オフィスをもっとぴちぴちにする3つの秘訣

 

 フィッシュ!哲学本第3弾で完結編。これで原著は終わりです。

 

本作はまた実在の体験などをもととしたフィクションストーリーで展開していきます。

設定は病院で、フィッシュ!哲学を導入したものの、導入者が部署異動となり、後任の師長が新しい人、という感じ。フィッシュ!哲学は導入され、魚の飾りつけなど変化はあり、旧人はそれに満足しているが新人は「なんだか溶け込めないぞ・・・」となっている様子。それに対し、「あの人はなじめない人だから、やめるだろう」と遠巻きに見てしまっている現場。・・・おお、なんだか既視感のある話だな。きっと多くの現場でこういうのってあるんでしょうね。

 

そんな感じのストーリー展開です。今回の話では、フィッシュ!哲学の原則である、

・遊ぶ

・人を喜ばせる

・注意を向ける

・態度を選ぶ

が既に浸透していることが前提の話になります。

 

これら、フィッシュ!哲学の導入によって一度は意識改革が成功します。しかしながら、人というのは水の低きに就くが如しで、楽なほうに流れてしまいます。フィッシュ!哲学導入の感動も冷めて、もとの病棟の雰囲気に戻りそうな様子・・・。

 

これを打破するのが、本作で新しく補足される3つの法則です。すなわち、

・見つける

・実現する

・コーチする

という概念です。一つずつ説明していきます。

 

・見つける

あらゆるビジョンの最も基本的な構成要素は、一人ひとりの”何か”である。”何か”とはビジョンを自分のものにすることである。ビジョンを持続させる力は、会話を通じて自分の”何か”を見つけることによって発生する。

んーと、カタカナと抽象的な用語が多く、小難しいんですが。病院の話で進めていきます。

病院って、そらもう沢山あるわけですが、どうやって就職先を選びましたか?

給与面、通勤面、環境面、色々と考えて選んだと思います。その中に、「理念」っていうのも大事なワードなんじゃないかなと私は考えてまして。

原則的に、病院というのは公益性が高いものですから、非営利法人になります。(美容整形という特殊ジャンルもあるんですが、省きます)非営利法人となると、基本的にはその理念に沿って病院は経営されるわけです。お金を目的としない。

その理念っていうのが、自分のしたいことと合致していれば、なかなかいい感じに仕事が出来る、っていうのが教科書的なお話になると思います。

 

ここの”見つける”というのは、そういった病院の理念を、自分のやりたいことに引き寄せて考えましょうという話になります。それによって仕事により自己実現が行えるという段取りを考えているわけですね。

”何か”とはビジョンを自分のものにすることである。とはつまり、理念から自分のやりたいことを引き寄せて実行していくこと。こうなりたいなー、こんな看護師になりたいなー、ということを実践していくことがビジョンということになります。

 

最後のビジョンを持続させる力は、会話を通じて自分の”何か”を見つけることによって発生する。とありますが、これは「こんな看護師になりなたいなー」と一人で考えて行動するだけでは不十分ということを意味しています。同僚と仕事の話や自分の話などをしていき、賛同を得たり、時には批判をもらったりすることで”何か”を向上させること、すなわち変化させ成長させていくことが大切だといっているのだと思います。

 

”見つける”とは、仕事で理念などから自分のしたいことを引っ張って実行し、人とそれについて話し合うことです。

 

・実現する

自分の”何か”がはっきりしたら、それを実現するチャンスはよりはっきりしてくる。そういったチャンスの事を、”ビジョン・チャンス”と呼ぶ。ビジョンを維持するエネルギーは、できる限りたくさんのビジョン・チャンスを生かすことによって生まれてくる。

あんまり用語は気にしなくて良いと思います。大切なのは、機会を大切に、アンテナを張って、どんどん挑戦していこうという点です。

やりたいことができる機会があったら、どんどんやっていきましょう。フィッシュ!哲学に基づいて、態度を選び、楽しく、相手を喜ばせ、注意を向けて行きましょうということなんじゃないかと思います。

 

”実現する”とは、理念に基づいて自分のやりたいことを楽しくどんどんやっていこう、ということです。

 

・コーチする

コーチングはお互いに与え合って、ビジョンを強く維持するための贈り物のようなものである。それが自分の仕事のやり方についてであろうと、チームワークのことについてであろうと、あらゆる方向にフィードバックされるようにしなければならない。コーチングはひとりよがりであってはならない。わたしたちはビジョンのためにコーチするのだ。

またカタカナと抽象的な言葉が多くややこしいのですが。p122あたりにわかりやすい説明が載っていまして。

 

タコ”と呼ばれるすし屋の新しいウェイターは、そのお店のフィッシュ!哲学などに共感して入職。”コーチしていい”といわれたため、色が変わったマグロをみて、新人ですが店長に「このマグロ新鮮じゃないんじゃないか」と提案。すると店長は「もしこのマグロが新鮮でないとわたしが思ったら、出さないわよ」とつっけんどんな態度で突き放してしまいます。しかしながら”タコ”は食い下がります。「コーチしたことに対してぶっきらぼうな対応をするのは、面接の時に話してくれた方針にはなかったような気がする」と”思い切って”いいました。すると店長は猛省し、コーチング精神そのものの話をしてくれたことに感謝し、私の態度は不適切だったと謝りました。

 

こんなことが現実に起こったらなんて素晴らしいでしょうね。コーチングはお互いなんでも言い合える環境を作りましょう、と提案し、それを受けれていく覚悟が必要だということを意味します。

この寓話の中では、結論としてマグロは新鮮だったとあります。事実がどうであれ、思った事を提案する勇気。またそれを聞いた時に感情のまま反論しない自制心。両方が試され、求められると述べられています。

フィッシュ!哲学を導入するだけではコーチングまでは行きません。あくまでも自分自身のことと、相手のことだけです。第三者的な目が入ることによって、自浄作用は高まり、より効果的で健全な職場環境の構築が可能になります。

 

”コーチする”とは、思った事を何でも提案できる事。またそれを受け入れる態度を常に作ることです。

 

本書のはじめのほうにある言葉を引用します。

新しい仕事のやり方が取り入れられた瞬間から、古いやり方へ戻ろうとする引力が発生する。最初は目新しさだけでも充分活力の源になるだろう。だが時間がたつにつれ、より強く持続性のある源を見つけなければならない。

とあります。まさにその通りですよね。

もし、フィッシュ!哲学を導入するとなるならば、こういった点にまで注目する必要があります。例えばサンキューカードやお魚バッチを導入したとしても、はじめはそれで充分活きると思いますが、一年後、三年後と時間が経って、導入の経緯を知らない新人がそれを見てどう思うでしょうか。どう感じるでしょうか。また、そういった外見的な部分だけに頼っているとするなら、それは本当の意味でのフィッシュ!哲学なのでしょうか。

飾り付けをすることはいいことですし、表彰することも素晴らしいと思います。しかしながら、そういった表面に出てくることではなく、もっと根っこのところからフィッシュ!哲学が浸透しないと意味がありません。挿し木をしたばかりの植物を引っこ抜くように簡単に終わってしまいます。

そうして簡単に終わってしまったフィッシュ!哲学を指差して「意味なかったね」とはなってしまっては、本当にもったいない。

やるならば、しっかりと、プランを練って、じっくりと。

 

これで原著の紹介は終わりです。次回、各地で導入されているフィッシュ!哲学を論文をもって追っかけてみます。