精神科看護「まごころ草とばいきん草」

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精神科看護に関する自分なりの覚書

フィッシュ!おかわり-オフィスをもっとぴちぴちにする3つの秘訣 感想

 

フィッシュ!おかわり―オフィスをもっとぴちぴちにする3つの秘訣

フィッシュ!おかわり―オフィスをもっとぴちぴちにする3つの秘訣

 

 フィッシュ!哲学本第3弾で完結編。これで原著は終わりです。

 

本作はまた実在の体験などをもととしたフィクションストーリーで展開していきます。

設定は病院で、フィッシュ!哲学を導入したものの、導入者が部署異動となり、後任の師長が新しい人、という感じ。フィッシュ!哲学は導入され、魚の飾りつけなど変化はあり、旧人はそれに満足しているが新人は「なんだか溶け込めないぞ・・・」となっている様子。それに対し、「あの人はなじめない人だから、やめるだろう」と遠巻きに見てしまっている現場。・・・おお、なんだか既視感のある話だな。きっと多くの現場でこういうのってあるんでしょうね。

 

そんな感じのストーリー展開です。今回の話では、フィッシュ!哲学の原則である、

・遊ぶ

・人を喜ばせる

・注意を向ける

・態度を選ぶ

が既に浸透していることが前提の話になります。

 

これら、フィッシュ!哲学の導入によって一度は意識改革が成功します。しかしながら、人というのは水の低きに就くが如しで、楽なほうに流れてしまいます。フィッシュ!哲学導入の感動も冷めて、もとの病棟の雰囲気に戻りそうな様子・・・。

 

これを打破するのが、本作で新しく補足される3つの法則です。すなわち、

・見つける

・実現する

・コーチする

という概念です。一つずつ説明していきます。

 

・見つける

あらゆるビジョンの最も基本的な構成要素は、一人ひとりの”何か”である。”何か”とはビジョンを自分のものにすることである。ビジョンを持続させる力は、会話を通じて自分の”何か”を見つけることによって発生する。

んーと、カタカナと抽象的な用語が多く、小難しいんですが。病院の話で進めていきます。

病院って、そらもう沢山あるわけですが、どうやって就職先を選びましたか?

給与面、通勤面、環境面、色々と考えて選んだと思います。その中に、「理念」っていうのも大事なワードなんじゃないかなと私は考えてまして。

原則的に、病院というのは公益性が高いものですから、非営利法人になります。(美容整形という特殊ジャンルもあるんですが、省きます)非営利法人となると、基本的にはその理念に沿って病院は経営されるわけです。お金を目的としない。

その理念っていうのが、自分のしたいことと合致していれば、なかなかいい感じに仕事が出来る、っていうのが教科書的なお話になると思います。

 

ここの”見つける”というのは、そういった病院の理念を、自分のやりたいことに引き寄せて考えましょうという話になります。それによって仕事により自己実現が行えるという段取りを考えているわけですね。

”何か”とはビジョンを自分のものにすることである。とはつまり、理念から自分のやりたいことを引き寄せて実行していくこと。こうなりたいなー、こんな看護師になりたいなー、ということを実践していくことがビジョンということになります。

 

最後のビジョンを持続させる力は、会話を通じて自分の”何か”を見つけることによって発生する。とありますが、これは「こんな看護師になりなたいなー」と一人で考えて行動するだけでは不十分ということを意味しています。同僚と仕事の話や自分の話などをしていき、賛同を得たり、時には批判をもらったりすることで”何か”を向上させること、すなわち変化させ成長させていくことが大切だといっているのだと思います。

 

”見つける”とは、仕事で理念などから自分のしたいことを引っ張って実行し、人とそれについて話し合うことです。

 

・実現する

自分の”何か”がはっきりしたら、それを実現するチャンスはよりはっきりしてくる。そういったチャンスの事を、”ビジョン・チャンス”と呼ぶ。ビジョンを維持するエネルギーは、できる限りたくさんのビジョン・チャンスを生かすことによって生まれてくる。

あんまり用語は気にしなくて良いと思います。大切なのは、機会を大切に、アンテナを張って、どんどん挑戦していこうという点です。

やりたいことができる機会があったら、どんどんやっていきましょう。フィッシュ!哲学に基づいて、態度を選び、楽しく、相手を喜ばせ、注意を向けて行きましょうということなんじゃないかと思います。

 

”実現する”とは、理念に基づいて自分のやりたいことを楽しくどんどんやっていこう、ということです。

 

・コーチする

コーチングはお互いに与え合って、ビジョンを強く維持するための贈り物のようなものである。それが自分の仕事のやり方についてであろうと、チームワークのことについてであろうと、あらゆる方向にフィードバックされるようにしなければならない。コーチングはひとりよがりであってはならない。わたしたちはビジョンのためにコーチするのだ。

またカタカナと抽象的な言葉が多くややこしいのですが。p122あたりにわかりやすい説明が載っていまして。

 

タコ”と呼ばれるすし屋の新しいウェイターは、そのお店のフィッシュ!哲学などに共感して入職。”コーチしていい”といわれたため、色が変わったマグロをみて、新人ですが店長に「このマグロ新鮮じゃないんじゃないか」と提案。すると店長は「もしこのマグロが新鮮でないとわたしが思ったら、出さないわよ」とつっけんどんな態度で突き放してしまいます。しかしながら”タコ”は食い下がります。「コーチしたことに対してぶっきらぼうな対応をするのは、面接の時に話してくれた方針にはなかったような気がする」と”思い切って”いいました。すると店長は猛省し、コーチング精神そのものの話をしてくれたことに感謝し、私の態度は不適切だったと謝りました。

 

こんなことが現実に起こったらなんて素晴らしいでしょうね。コーチングはお互いなんでも言い合える環境を作りましょう、と提案し、それを受けれていく覚悟が必要だということを意味します。

この寓話の中では、結論としてマグロは新鮮だったとあります。事実がどうであれ、思った事を提案する勇気。またそれを聞いた時に感情のまま反論しない自制心。両方が試され、求められると述べられています。

フィッシュ!哲学を導入するだけではコーチングまでは行きません。あくまでも自分自身のことと、相手のことだけです。第三者的な目が入ることによって、自浄作用は高まり、より効果的で健全な職場環境の構築が可能になります。

 

”コーチする”とは、思った事を何でも提案できる事。またそれを受け入れる態度を常に作ることです。

 

本書のはじめのほうにある言葉を引用します。

新しい仕事のやり方が取り入れられた瞬間から、古いやり方へ戻ろうとする引力が発生する。最初は目新しさだけでも充分活力の源になるだろう。だが時間がたつにつれ、より強く持続性のある源を見つけなければならない。

とあります。まさにその通りですよね。

もし、フィッシュ!哲学を導入するとなるならば、こういった点にまで注目する必要があります。例えばサンキューカードやお魚バッチを導入したとしても、はじめはそれで充分活きると思いますが、一年後、三年後と時間が経って、導入の経緯を知らない新人がそれを見てどう思うでしょうか。どう感じるでしょうか。また、そういった外見的な部分だけに頼っているとするなら、それは本当の意味でのフィッシュ!哲学なのでしょうか。

飾り付けをすることはいいことですし、表彰することも素晴らしいと思います。しかしながら、そういった表面に出てくることではなく、もっと根っこのところからフィッシュ!哲学が浸透しないと意味がありません。挿し木をしたばかりの植物を引っこ抜くように簡単に終わってしまいます。

そうして簡単に終わってしまったフィッシュ!哲学を指差して「意味なかったね」とはなってしまっては、本当にもったいない。

やるならば、しっかりと、プランを練って、じっくりと。

 

これで原著の紹介は終わりです。次回、各地で導入されているフィッシュ!哲学を論文をもって追っかけてみます。

フィッシュ!実践篇 ぴちぴちオフィスの成功例一挙公開 感想

 

フィッシュ! 実践篇 ― ぴちぴちオフィスの成功例一挙公開

フィッシュ! 実践篇 ― ぴちぴちオフィスの成功例一挙公開

 

フィッシュ!哲学系記事第三弾。原著の続編です。

 

前作では架空のオフィスでの話でしたが、今回は通信会社、カーディーラー、病院、屋根葺き業者の4つの実話をまとめられたものになっています。

注目はやはり病院でしょう。

 

フィッシュ!哲学導入前後でこの病院はアンケートをとっていますが、

1999年9月から2000年5月の8ヶ月で、

チームワークがかけている25%→10%、おおいにある30%→75%

ポジティブな態度かけている25%→15%、おおいにある25%→75%

コミュニケーションかけている15%→20%、おおいにある33%→65%

協力かけている25%→10%、おおいにある25%→75%

満足度かけている25%→10%、おおいにある25%→75%

発言権欠けている33%→20%、おおいにある15%→65%

と、データ一部抽出ですが全てのポイントがほぼ上昇しています。

論文のように細かいデータがこの本に載っているわけではないのですが、フィッシュ!により大きく意識改革が出来たこと、また病院にとっても有益である事が示唆されます。

 

病院の章での印象的な段落としては、同じケアをするにしても相手に注意を向けてケアをするヘルパーのほうが、業務をこなすナースよりも患者の満足な表情を得られていたこと、フィッシュ!哲学なんてやる時間が無い!とコメントするナースに対し同僚が「どっちみちやらないといけない仕事には変わりない。仕事に対しどんな気持ちで向き合うかと言う話でしょ」と持ちかけ、議論になったということ、お魚バッチを職員同士で送りあい、時には患者や、関係ない喫茶店の店員にまで配っていたということがあげられます。

最後のお魚バッチいいですよね。ボーイスカウトの勲章みたい。集めて、配って、一目でわかって、元気が出そうなアイデアだなと個人的に思いました。

またフィッシュ!哲学導入のために勇気を出して、雰囲気の悪いオペ室の師長が購入したお魚ぬいぐるみが翌日に”誘拐”されたというのも、プロレス的ですが遊びと注目を集めるいい試みですよね。そういうの、面白いなって思います。

 

もちろん病院エピソード以外でも印象的な段落は多くありました。前作だけでは、フィッシュ!哲学の表面的な部分だけをさらっと触れるだけの印象で、今作も一緒に読まないと片手落ちになるのかなと思いました。

冒頭の通信会社のエピソードですが、基本的に通信会社の電話受けはクレーム的なものが多く、気のめいる仕事とかかれています。ネガティブな言葉も多く受け取り、仕事は気が重くなると。それって、精神看護の世界も近いものありますよね。

心が疲れ、病んでしまっている人は余裕がなく、時としてスタッフに暴言、暴力が出ることもあります。それにより私たちもまた心が辛くなってしまいます。

態度を選ぶことで、また仕事に遊びを取り入れることで、心の余裕を取り戻し、職員同士や患者さんとの”あいだ”が少しゆるくなり、良いかかわりが出来るようになるのではないでしょうか。

今後また著書を紹介する予定ですが、木村敏先生の”あいだ”理論、宮内倫也先生の”あわい”理論というものがありまして、私たち医療者側の心の余裕というのも、精神科ではとても大事。それと同時に、患者さんにもその心の余裕を持てるように、意識を向けてあげることも大事だと私は考えています。

フィッシュ!哲学で柔軟なかかわりが出来る職場環境となれば、患者さんへの関わりも向上し、もって病院の質の向上にもつながるのではないでしょうか。

 

次回、フィッシュ!おかわり、と第3作目の感想を述べようと思います。

その後にいくつか論文を横断的に紹介していこうかと思っています。